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​小林君の利尻滞在記

水族館ボランティアとして利尻島にひとり派遣された

​小林君の利尻昆布漁を中心とした利尻滞在記です。

 店頭に並ぶ昆布、どうやって作られているのか知っていますか。

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 店頭に並ぶ昆布、どうやって作られているのか知っていますか。
 私は利尻での昆布づくりを経験するまで考えたこともありませんでした。そもそも私の家では出汁には昆布を使っていましたが、一人暮らしをするようになってからは粉末タイプの出汁を使っていたので、昆布をあまり身近には感じていませんでした。

 しかし、今回の利尻島での昆布バイトを通じて、漁師さんの昆布にかける熱量・昆布つくりの大変さを身をもって感じました。この手記を通じて、みなさんにも昆布や利尻島について興味を持って頂けたらなと思います。
 

 まず、私が利尻に行くことになった経緯についてお話ししたいと思います。私は以前からうつ病を患っています。それが大学で悪化し、授業に出ることすら億劫になったので休学と言う選択肢を取りました。

 

でもそんな自分を変えたい!と花園教会水族館から利尻島での昆布バイトについての掲示板をみて思い切って応募したのがきっかけです。

当時は生活リズムが乱れていて、利尻に行く直前も朝の9時に寝て夕方の16時に起きるという生活をしていました。

事前に昆布バイトは朝の2時に起床するという話を聞いていたので起きることができるのかすごく不安でした。(後になって親方の奥さんに話すと、「言ってくれれば配慮したのに」と言われました笑)

結果的には初めて一人で飛行機やフェリーに乗った緊張もあってか、早く寝る習慣がつき仕事に寝坊することはなかったです。

ちなみに昆布バイトではバイト中の住む家と食事代が提供されます。
 

さて、昆布バイトでは2時に起きるというお話をしましたが、具体的な流れは次の通りになります。

〇朝2時に親方から昆布を水揚げするかどうかの連絡が入る

〇2時半には準備を整えて干し場に向かう、昆布が着き次第干し始め

〇8時くらいに午前の仕事が終わり

〇午後の2時半から干した昆布をすべて回収する

という流れです。

 

この一連の作業を“昆布干し”と呼んでいます。

 

これだけ聞くと一見、2時に起きることが一番大変じゃないか、と思うかもしれませんが、早起きは意外と慣れてくるもので起こされずとも親方から連絡が入った時点で起きられるようになります。

 

一番大変なのは、昆布干しのメインである、干しの作業です。

昆布は一枚一枚丁寧に干す必要があります。

例えば昆布の裏表を間違えてはいけない、昆布同士が重なってはいけない、ゴミをなるべく取らなければならないなどです。

干すときは基本中腰の体勢で行い、さらにそれらの点を注意しながらできる限りの速さで干さなければならないのです。速さと正確さをできるだけ意識しながら作業しているつもりですが、疲れてきてしまうとどうしてもスピードが遅くなったり、表裏を間違えてしまったりと、疎かになってしまう部分が出てきてしまいます。

 

後ほどお話しますが、先述した注意すべき点が意識できていないと後々の作業が大変になります。そのために、バイトは午前と午後の作業の合間は休憩時間ですが、親方は休憩もほぼとらず、一枚一枚ミスがないか確認しています。
この干しの作業を1か月ほど行い養殖していた昆布をすべて干し終わると、そこからはひたすら加工作業です。

商品になる昆布は1等、2等など、重さや長さによって10以上の等級に分類されます。2m近い昆布から、等級に合わせた規格を親方が判断して切り出しています。等級によって販売するときの価格がかなり変わってくるのでこの部分は親方が主に行っています。そして等級によって切られた昆布が曲がっていたり、折れたりしていた場合には熱を当てて昆布がまっすぐにします。ここで先ほどの干しの作業の際に注意しなければならない点が関わってくるわけです。

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この作業を“しわ伸ばし”というのですが、熱を適切に当てないと昆布の色が変わることやしわの跡が残ることがあり、結果的に等級を下げることにつながってしまいます。

干しのときに意識できていればこの作業を行う時間を短縮でき、価値を落としてしまうリスクを避けることができるわけです。また、その次にあるゴミ取りという作業も同様です。

昆布が乾くと、他の海藻やゴミも乾いてくっついてしまいます。

それに塩水をかけ浮かせて剥がすという作業なのですが、その作業でも昆布の色が変わり、品質を落としてしまうということがあります。

干すときであればゴミを払うだけで取れたものが、あとになって時間をかけて剥がさなければならなくなるということを考えると、やはり干しの際の意識がいかに大切であるかがわかります。

 

 

 

 

 

また、その他の作業として昆布の余計な部分を切り落とす“耳切り”や、決められた量をきれいに箱詰めする作業があります。基本的に各個人にこれらの作業が割り振られ、1日約8時間ひたすら同じ作業を続けることになります。

そのため、加工の作業には集中力がとても必要になります。

同じ作業を黙々とひたすら8時間、私が今まで見聞きしてきた仕事の中で

これほど集中力、丁寧さ、迅速さが求められた仕事はありません。

しかし、これは私たちがバイトであるためにこれらの作業だけで済んでいる

のです。私たちは契約をしているため、

8時間働いていれば進捗がどうであれ一定の給料をもらうことができます。

けれども、漁師さんの場合は昆布の出荷締め切りというものがあります。

組合によって決められた日付までに昆布を加工し、

出荷しなければその年の収入が減ってしまうのです。

そのために親方はめちゃくちゃ働いていました。

『24時間戦えますか』ではないですが、

 

一時期は1日に20時間以上働いているんじゃないかと思ったときもありました。

そんな親方の姿を見ていると、私たちバイトは住むところも食事も職も用意して頂いているのにその分をちゃんと返せているのかと心配になります。

ですが、私たちはバイトで、昆布に関しては素人です。ですから、自分にできる精一杯のことをしようと決め、働いていました。
このように昆布をつくるためには多くの時間と労力がかけられています。

 

私はこんなにも昆布つくりが大変であるとは考えてもみませんでした。

おそらくまだ私が知らないだけで身近なものにも多くの努力が積み重ねられているのだと思います。

そのことを利尻での経験を通じて実感することができました。

またうつ病の症状も現在は改善されつつあり、これからもし何かで失敗しても帰れる場所がある・逃げられる場所がある、と思えるようになりました。​

自分の世界を広げる、第一産業を体験するという意味でも利尻島はとても良い場所だと思います。

 

そのきっかけをくれた花園教会水族館に感謝するとともに、特に島の人たちが本当に良くしてくださって、また優しさに接する事ができ、自分ではあまり気付かなかったのですが帰京した際に友人・知人から「なんだか雰囲気が変わったね!明るくなったね!」と言われるようになりました。​

利尻島の皆様、本当にありがとうございました。

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是非、これを読んでくださっている方も自然がとてもきれいなので興味があれば観光だけでも訪れてみてください!

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